巧みなブログ

国語教育を勉強していた社会人一年目のブログ

おばけはいかにして屋外での夜を過ごすか(または村上春樹風に肝試しについて考えるということ)(発掘されたメモ②)

タイトルがなげぇよ。メモから発掘してそのまま消すのが惜しくなった落書き第二段です。

おばけはいかにして屋外での夜を過ごすか(または村上春樹風に肝試しについて考えるということ)


そのおかしな発表を聞いたとき、僕はシェリル・クロウを聴きながら元会長の女の子とビデオ通話をしている最中だった。その子のちょっと幼稚な言葉遣いがふいに脳裏に浮かんだところで、発表者の女の子が話し始めた。

「F川・F澤…、Ptric・W田。」

「…やれやれ」

僕はため息をついて、この奇妙な報告についてもう一度考える。四年の僕がおばけだって? おかしなことがあるものだ。

畳の薫る部屋で五十六と着替えながら【やっぱり、悲しいな】と独り言を言った。けれども僕はその仕事に何かしら特殊なものを感じて、それを引き受けることにした。

そういうわけで、これから紹介するのは僕なりの肝試し談ということになる。できるだけタフでクールなお話にしたつもりだけれど、これから僕が語ることについて、あまり気を悪くしないでもらいたい。


待機中は、「1人でスマホ」でもしておこう。服装は、目立たないようなブラック。あるいは、全身真っ白に仕上げてもいいかもしれない。

彼らがやってきたら、まずこう聞くんだ。「やあ。女の子と歩くのは楽しいかい?」彼らは「ええ。とても」と言ってくれるかもしれないし、「ちょっと、そんなに僻んでるの?」と機嫌を悪くしてしまうかもしれない。それは君の運しだいだ。

おっと、いけない。彼らを驚かすことも重要だ。いいかい、おどかすときに、間違っても「女の子と回れていいな」なんて言っちゃいけない。あくまで自然にこう聞くんだ。「そんな女の子、KSGにいたっけ?」――と。もちろん、発声練習はしっかりとね。女の子はボソボソと自信なさげに喋る男のことを、マスタード抜きのフランク・フルトみたいなものだと思っているからね。


おどかし終えたら、持ち場に戻ってラインに報告しよう。君はどきっとして、こんな疑問を思い浮かべるかもしれない。“さっきのやり方は適切だったのか?”答えはノーだ。完璧な驚かし方なんてものは存在しない、完璧な行射が存在しないようにね。


「ねえ」と通過したペアの女の子は男の子に向かってこう言うだろう。「さっきの人、どうしてあんなに必死だったの?」と。男の子は真面目な顔でこう言う。「人間は2種類に分けられる。つまり、おばけに全力を尽くせる人間と、そうでない人間だ


肝試しが終わったところで、彼女はいよいよ君に聞くだろう。「ねえ、ホントはおばけじゃなくて私と歩きたかった?」――まずは少しはぐらかして、「明日の昼ごはんも中華かな」と答えるのがマナーだ。ジャージのポケットからさりげなく予約した301号室のルームキーを出し、テーブルの隅に置こう。彼女が「ちゃんと言って」と怒るようなら、君はきちんとそれを言葉にしなくてはならない。――けれど、彼女への愛を打ち明ける前に、君には彼女に尋ねるべきことがある。


ところで、村上春樹を読んだことは?


その子が首を縦に振ったら、君はすぐに彼女の手を引き、宴会場を飛び出し、301号室へ向かえばいい。

そうでない場合――これはあまり考えたくないレア・ケースだけれど――、彼女はこんな風に君に言うかもしれない。


おばけになるような男ってみんなこうなの?


その言葉が彼女の口から出たときには、もうすべてが終わっている。残念だけれど、僕が君に助言できることは、もう何もない。君はひとこと「猪苗代湖を眺めたいんだ」と言って席を立ち、オール・アイ・ワナ・ドゥを口ずさみながらMNT矢を出る。

君はひとりの女の子と肝試しを通して仲良くなれる可能性を失い、彼女もまた、君という男を失った。ザッツ・オール――ただ、それだけだ。


このお話はこれで終わりだ。それ以上でもそれ以下でもない。もしかしたら、今も世界のどこかで、女の子に選ばれなかった孤独なおばけたちが1人でスマホを見ているかもしれない。例えば、伊豆のIZM想の裏手とかで。

 

おわり

サークルのイベントで肝試しがありまして、残念ながらおばけ役になってしまった時に待機中暇で書いてたやつです。一部改変してます。

雨は降ってくるし虫は多いし。でもそんななかで茂みに隠れてるからこそ、楽しそうに歩いてくる男女を本気でビビらせてやろうと意気込めたのかもしれません。