巧みなブログ

国語教育を勉強していた社会人一年目のブログ

高校生が読む小説ベスト3が今年は読まれなくなる?

高校生に読まれている小説ベスト3

これ、何だと思いますか?

正解は羅生門」「こころ」「山月記です。

ここまでで、人によっては「あぁ、あの話ね」と気付いてもらえるのではないでしょうか。

正解はこれですと言い切れるのには根拠がありまして、この3つが高校の国語の教科書で定番教材と呼ばれる作品(教材)で、ほぼ全ての国語総合・現代文の教科書に掲載されているからです。

教科書に掲載されている=必ず授業で読む、という訳ではないのですが、恐らく大体の高校の教室ではこの3つが読まれているのではないかと思います。

 

定番教材が抱える読者数

 

気になったので調べてみました。リンクを貼っておきます。

 

 

高等学校学科別生徒数・学校数:文部科学省

 

これによると高校生の数は3226017人、大体300万人としましょう。そして単純に3分割すると、1~3年生は各100万人くらいになります。「羅生門」は高校1年生が使う国語総合の教科書に、他の2つは高校2・3年生が使う現代文の教科書に掲載されているのですが、「羅生門」を例に考えてみたいと思います。

毎年100万人が高校1年生になり、その全てが「羅生門」を授業で読む。その次の年も100万人が読む、その次の年も…と毎年100万人の読者を獲得していることになります。「羅生門」が定番教材となったのは1980年代頃なので、現在に至るまで約40年に渡って毎年100万人の読者を得ている(40年間の「羅生門」の掲載率や生徒の人口は一定ではないので大体ではありますが)と考えると、その規模の大きさに驚かされます。

ちなみに小説等を売る出版業界の目安としては「10万部売れたらベストセラー」というのが一般的なようです。このことからも「羅生門」はある意味異常な数の読者を抱えているといっていいでしょう。

同じ理屈で、「山月記」と「こころ」も毎年相当な数の高校生に読まれています。

 

山月記」「こころ」を読まない高校生が出現?

この記事を書こうと思ったきっかけは「もしかしたら今年『山月記』や『こころ』を読まない高校生が出てくるんじゃないか?」と考えたことです。

なぜ今年かというと、「コロナの影響による休校」中の高校が少なくないからです。例えば都立高校は5月6日まで休校が決まっていますが、休校期間が延長される可能性は大いにあると思います。仮にあと1~2カ月休校が延長されたら、上の二つを授業で扱わない高校が出てくるんじゃないかなと。

説明させてください。

まず、高校2年生が1年間で受ける現代文の授業の回数は当然決まっています。週に2回現代文の授業があるとすると年間で大体70回くらい。学校の先生はこの70回という枠のなかで「この教材を8回の授業で終わらせて、次のこれを6回で…」と年間計画を立てていきます。現代文の授業で扱う教材の種類は説明的文章・小説的文章(「山月記」「こころ」)・詩歌・短歌や俳句・その他といった感じです。「1年間説明的文章だけしかやりません!」みたいなことはほとんどなくて、大体の学校が偏りのないように年間計画を立てます。

そうすると(これもざっくりなのですが)、年間で小説的文章に充てられる授業回数は25回くらいではないかと思います。例年通りならばこの25回を使って、「山月記」「こころ」+1~2つくらいの小説的文章を授業で扱う学校が多いのではないでしょうか。

ところが、今年はコロナの影響で既に1か月の休校が決まっています。つまり約8回分の現代文の授業が潰れることになります。ここまでならともかく、さらに延長となれば、どんどん小説的教材に使える時間が少なくなります(先ほど書いたように「じゃあ今年は説明的文章1個もやらなくていいか!」と偏ることはないと思うので)。

少なくなった結果、例えば「今年度は『山月記』と『こころ』の2つだけをやる」or「『山月記』と『こころ』のどちらか1つ+その他の教材1~2つをやる」の二択を迫られた場合、後者を選ぶ学校はあるんじゃないでしょうか。皆さんの記憶にもあるかもしれませんが、どちらも内容的にも分量的にも重たい教材なので。

 

だらだらと書いてしまいましたが、こんな理由から山月記」「こころ」を読まない高校生が出てくるかもしれないと思っています。

 

おわり

さも詳しい人のように書いてしまいましたが、所詮は学生の考えることなので「こんなことがもしかしたらあるかもね~」くらいに読んでいただけると幸いです。

休校で授業がなくなると書きましたが、夏休み等に補習をして補う学校は多いと思います。授業を自習課題で代替(そもそもこれは出来るのだろうか)する学校では上のようなことが起こるかもしれません。

個人的には、全国どこに行っても、同世代だけでなく親世代くらいまで誰とでも「下人が老婆の服盗む話だよね?」とか「なんか人が虎になるやつ」とか「K」とかって話が出来るというのはすごいことだなぁと思っているので(間もなく学習指導要領が変わることもあり)国民の小説といっても過言ではない定番教材を読まない高校生が出てくるかもしれないというのはちょっと寂しく感じます。